判例

役員誹謗中傷への差止請求と共同利益背反行為の認定

1)事件概要

役員への誹謗中傷等を行う区分所有者に対する差止請求事件。

2)判決裁判所と判決年月日

東京高等裁判所・平成24年(2012年)3月28日(差戻し後の控訴審判決)

3)事件の経緯

 マンションの区分所有者であるYさんは、平成19年頃から管理組合の役員に対し「修繕積立金を勝手に運用した」などと誹謗中傷するビラを配り、電柱に貼るなどの迷惑行為を繰り返していました。さらに、マンションの工事を請け負った業者に対して工事を辞退するよう迫る電話をかけ、業務を妨害しました。Yさんは集会で意見を言うこともなく、一方的にこれらの行為を行っていました。

 これに対し、管理組合の集会で訴訟の担当者に選ばれた区分所有者のXさんが、Yさんの行為をやめさせるため、区分所有法に基づき裁判を起こしました。

 1審と最初の控訴審では「騒音などのように建物の物理的な管理・使用に関する問題ではない」として訴えは退けられましたが、最高裁判所が審理のやり直しを命じ、今回の差戻し審へと繋がりました。

4)争点

 最大の争点は、Yさんの行った「管理組合役員への誹謗中傷」や「工事業者への妨害行為」が、区分所有法第6条1項で禁止されている「建物の管理又は使用に関し区分所有者の共同の利益に反する行為(共同利益背反行為)」に当てはまるかどうかです。

 過去の裁判例では、騒音や悪臭など物理的にマンション生活を脅かす行為が対象とされていました。そのため、役員個人への悪口や嫌がらせといった行為が、マンション全体の利益を害するものとして法律上差止めできるレベルなのかが問われました。

5)裁判所の判断(結論と理由)

 裁判所は結論として、Xさんの差止め請求を認め、Yさんに迷惑行為をやめるよう命じました。その理由として、Yさんの行動は単なる特定の役員個人への悪口や嫌がらせのレベルを大きく超えていると指摘しました。

 具体的には、業者への妨害行為が続くことで、集会で正式に決まった防音工事などの進行が妨げられてしまう事態が発生していました。また、このような状態を放置すれば、管理組合の役員になろうとする人がいなくなり、組合運営自体が困難になってしまいます。

 このように、マンションの正常な管理や使用が著しく邪魔されている状態であるため、裁判所はYさんの行為が「共同の利益に反する行為」に当たると判断したのです。

6)この判例が示す判断基準・法解釈

 この判例は、区分所有法における「共同の利益に反する行為」の解釈を広げた重要な基準を示しています。騒音や悪臭といった建物の物理的な問題だけでなく、役員に対する誹謗中傷であっても、それがエスカレートして管理組合の業務遂行や運営に支障をきたし、結果的にマンションの正常な管理が妨げられる場合には、法律違反として差止めの対象になるという解釈を明確にしました。

7)実務上の留意点(この判例から企業や個人が注意すべきこと)

 マンションの管理組合や管理会社にとって、クレーマー的な住人への対応において非常に参考になる事例です。特定の役員に対する誹謗中傷であっても、「被害を受けた役員個人の問題」として放置してはいけません。放置すれば役員のなり手が不足するなど、組織の運営そのものが立ち行かなくなるリスクがあります。

 嫌がらせが組織の業務遂行に支障をきたすレベルに達した場合には、個人任せにせず、集会での決議を経るなどして、組織全体として毅然と法的な差止め等の措置をとることが可能であり、かつ重要であるという点に注意が必要です。

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