判例

【裁判例解説】住宅リースバック取引判例集(7)リースバックにおける賃借人からの中途解約制限の有効性

(東京地裁 令和元年12月5日判決・平成31年(ワ)第264号)

【事案の概要】

不動産の所有者(売主・賃借人)が、不動産業者(買主・賃貸人)に自宅を売却し、同時に定期建物賃貸借契約を締結して居住を継続するリースバック取引を行った事案です。

本件の契約には、賃貸人(買主)の投資回収(利回り)を確保する目的から、「賃借人は、契約期間中、中途解約をすることができない(あるいは中途解約に際して高額な違約金を要する)」旨の特約が設けられていました。しかし、賃借人側が事情変更により期間途中で解約・退去を申し出たところ、賃貸人側が特約を盾にこれを拒否(または違約金を請求)したため、当該中途解約制限特約が借地借家法や消費者契約法に違反し無効ではないかが争われました。

【判旨】(箇条書き)

・定期建物賃貸借契約において、床面積200㎡未満の居住用建物の賃借人は、療養、親族の介護等のやむを得ない事情がある場合、法的に中途解約権が保障されている(借地借家法38条7項)。

・リースバック取引においては、買主(賃貸人)が安定的な利回り確保を目的として中途解約を制限する合理的な動機があるとしても、借地借家法の強行法規としての性質を完全に排除することはできない。

・ただし、リースバックは賃借人(元所有者)自身が売買代金というまとまった対価を事前に得ているという特殊性があり、通常の賃貸借契約とは経済的背景が異なる。

・裁判所は、当事者間の交渉経緯、売買代金や賃料の額、解約を制限する期間や違約金の設定水準などを総合的に考慮し、特約が直ちに無効とはいえない(または一部のみ無効とする)判断枠組みを示し、本件における特約の効力および解約の可否を個別具体的に認定した。

【コメントおよび適正取引主任者へのアドバイス】

通常の賃貸借契約では、賃借人からの解約は比較的容易に認められます。しかし、投資商品としての側面を持つリースバックでは、買主側からすれば「すぐに退去されると投資計画が狂う」ため、数年間の中途解約禁止条項(ロックアップ条項)を入れるケースが少なくありません。本判決は、この「投資家の論理」と「借地借家法上の居住者保護」が衝突した際の実務的な調整のあり方を示しています。

《適正取引主任者へのアドバイス》

適正取引主任者の皆様は、契約書に中途解約制限や高額な違約金条項を設ける際、以下の点に留意してください。

強行法規の理解と説明:

借地借家法38条7項(200㎡未満の居住用定期借家の解約権)は強行規定であり、これを完全に奪う特約は無効となるリスクが高いです。顧客のやむを得ない事情(病気・介護・転勤等)による解約までは一律に制限できないことを社内で共有してください。

違約金設定の合理性:

仮に中途解約を制限する(あるいは違約金を設定する)場合でも、消費者契約法第9条(損害賠償額の予定の制限)に照らし、「賃貸人に生じる平均的な損害額」を超える部分は無効とされます。法外な違約金ではなく、実費や合理的な逸失利益の範囲内に留めるよう、契約条項のリーガルチェックを徹底してください。

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