判例

民法564条の事実を知りたる時とは

事件概要:

買主が売主に代金減額を求めた除斥期間の起算点に関する事件です。

判決裁判所:

最高裁判所 第一小法廷

判決年月日:

平成13年(2001年)2月22日判決

事件の経緯:

 買主Xは平成2年、売主Yから隣地(乙地)との境界を示された上で土地を購入し、引渡しを受けました。しかし平成3年、乙地所有者Aが「境界はもっと北側だ」と主張してブロック塀を設置したため、XはAを相手に塀の撤去等を求める訴訟を起こしました。Aは答弁書で自らの所有権を主張し、裁判はXの敗訴(Aの所有権認定)で確定しました。

 敗訴確定後の平成8年、Xは「購入した土地の一部(約11.26㎡)が他人の所有だった」として、売主Yに対し代金減額請求(約1,239万円の返還請求)訴訟を提起しました。 これに対し売主Yは、「Xは裁判でAから答弁書が出された時点(平成3年)で他人に属する事実を知っていたため、旧民法564条が定める1年の除斥期間が過ぎており請求権は消滅している」と反論しました。

 一審・二審ともにYの主張を認めXの請求を退けたため、Xが最高裁へ上告しました。

争点:

 旧民法564条(他人の権利の売買における担保責任)が規定する、代金減額請求権等の除斥期間の起算点である「買主が事実を知りたる時」とは、いつを指すのかが争点となりました。 具体的には、単に「売買目的物の一部が他人の所有に属するという主張・事実を知った時(本件では隣人Aから答弁書が提出された時点)」で除斥期間が進行し始めるのか、それとも「買主が売主に対して担保責任を追及できる程度に確実な事実関係を認識した時(本件では隣人との訴訟で敗訴が確定した時点など)」を指すのかが問ました。

裁判所の判断(結論と理由):

 最高裁判所は、二審(原審)の判決を破棄し、審理を大阪高等裁判所へ差し戻しました。 理由として、「事実を知りたる時」とは、単に権利の一部が他人に属することを知っただけでは足りず、「買主が売主に対し担保責任を追及し得る程度に確実な事実関係を認識したこと」が必要であると判断しました。

 本件のように土地の売買後、隣地所有者との間で所有権の帰属を巡る訴訟となり、隣人が自らの所有権を主張したとしても、買主としては公権的な判決(裁判所の判断)を待って対処するのが通常です。したがって、隣人から答弁書が提出されたからといって、直ちに買主が「担保責任を追及できる程度に確実な事実関係を認識した」とは言えません。そのため、答弁書提出時を除斥期間の起算点とした原審の判断には法令の解釈適用に誤りがあると結論づけました。

この判例が示す判断基準・法解釈:

 旧民法564条における「事実を知りたる時」とは、単なる噂や第三者の権利主張を知った時点ではなく、「買主が売主に対して担保責任を追及できる程度に確実な事実関係を認識した時」であるという判断基準を明確に示しました。隣人等との間で権利の帰属が争われている場合、公権的な判断(確定判決等)や客観的な状況によって事実関係が確定・判明した段階が起算点になるという解釈を確立しています。

実務上の留意点(この判例から企業や個人が注意すべきこと):

 不動産取引や権利売買において紛争が発生した際、売主・買主双方が期間制限(時効や不適合通知期間など)に関して注意すべき重要な示唆を含んでいます。

【買主側】

第三者から権利主張や境界トラブルを指摘された場合、単なる口頭主張の段階で焦って権利消滅を恐れる必要はありませんが、事実関係が客観的に確定した段階で速やかに売主へ通知・責任追及を行う体制を整えておくことが必要です。

【売主・事業者側】

買主からの追及に対し、「第三者が異議を申し立てた時点から時間が経っている」という形式的な理由だけで責任を免れることはできません。トラブルの事態の推移や確定時期を正確に把握し、誠実に対応することが求められます。

関連記事

コメント

この記事へのコメントはありません。

TOP