判例

【裁判例解説】住宅リースバック取引判例集(9)事業用定期借地権付建物の信託譲渡とリースバックの法的性質(第一審)

(東京地裁 令和3年10月29日判決・平成30年(ワ)第27899号、平成30年(ワ)第28790号)

【事案の概要】

事業用定期借地権上の建物を所有して事業を営む原告(借地権者)が、資金調達のスキームとして、対象建物を信託銀行等の受託者に信託譲渡(建物の所有権および借地権の移転)し、同時に同建物を受託者からリースバック(賃借)して事業を継続した事案です

その後、原告がリースバックの賃料を滞納したため、受託者側から賃貸借契約の解除および建物の明渡しを求められました。これに対し原告(元所有者)は、「本件の信託譲渡とリースバックの実態は、単なる不動産担保融資(譲渡担保)に過ぎず、各種強行法規に違反して無効である」などと主張し、契約の無効や損害賠償を求めて争いました(前回解説した最高裁決定の第一審判決にあたります)。

【判旨】(箇条書き)

・信託スキームを用いたリースバック取引が、真正な信託・賃貸借契約か、実質的な「譲渡担保(貸付)」に該当するかは、契約書類の名称だけでなく、当事者の目的、対価(信託配当や賃料)の設定水準、物件の管理権限の所在など、取引の経済的実態を客観的に評価して判断される。

・本件スキームにおいては、信託法に基づく手続や地主からの借地権譲渡・転貸の承諾が適正に履践されており、売買代金相当額や賃料の設定にも一定の客観的・経済的合理性が認められる。

・したがって、本件取引の実態が単なる金銭消費貸借(譲渡担保)に過ぎず、一連の契約が虚偽表示等により無効であるとする原告の主張は採用できない。

・賃料滞納に基づく受託者側からの賃貸借契約解除は適法かつ有効であり、原告に対して建物の明渡しを命じる。

【コメントおよび適正取引主任者へのアドバイス】

本判決は、複雑な金融手法である「信託譲渡型リースバック」の有効性が正面から問われた事案の第一審として、裁判所が取引の「経済的合理性」をいかに精緻に審査するかを示した実務上重要なケースです。

事業用定期借地権という権利関係が厳格な物件において、信託を活用するスキームは高度な資金調達手段ですが、契約書面の体裁さえ整えればよいわけではなく、「市場原理に照らして適正な取引条件か」が勝敗を分けます。

《適正取引主任者へのアドバイス》

適正取引主任者の皆様は、法人向けの高度なリースバックスキームに関与・審査する際、以下の点に留意した管理体制を構築してください。

経済的合理性の客観的担保:信託型等の複雑な組成を行う場合、譲渡代金や賃料の算定根拠が不動産相場や金融市場の基準から大きく乖離していないか(実質的な暴利とみなされるリスクがないか)を厳しく審査し、不動産鑑定書などの客観的な証拠を記録として保全してください。

誤認防止のための重要事項説明:スキームが複雑になるほど、顧客は「単なる不動産担保ローン」と誤認しやすくなります。賃料滞納時には「事業の拠点である店舗・工場からの即時退去」という致命的な結果を招くことを、図解を用いた重要事項説明等で明確に伝え、顧客が取引の真の性質を正しく理解した上で合意した証跡を残すことが不可欠です。

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