特約は、契約書にどのように書かれているかによって、その明確さから大きく3つのパターンに分けられます。
1.条件や金額が曖昧な特約:「クリーニング費用は借り主の負担とする」とだけ書かれているもの。
2.業者の指定がある特約:「専門業者のハウスクリーニング費用は借り主の負担とする」と書かれているもの。
3.金額まではっきりと明確な特約:「専門業者のハウスクリーニング費用〇〇円は借り主の負担とする」と、清掃する人と金額の両方が具体的に書かれているもの。
1)特約の有効性に関する法的問題点
本来、普通に生活していて自然についた「通常の汚れ」の清掃代や、次の入居者を募集するために部屋を綺麗にする清掃代は、毎月の家賃のなかに含まれており、「貸し主(大家さんなど)」が負担すべきものです。
そのため、本来払わなくてよい費用をあえて借り主に払わせる特別な約束(特約)が法的に認められるためには、厳しい条件があります。特約を有効にするには、「どのような汚れに対して、いくら払うのか」が契約書に具体的に明記されており、貸し主から十分な説明を受けた借り主が「通常は払わなくていい費用だが、今回は自分が払う」と明確に理解して合意している必要があります。
特に上記「類型1」のような「借り主負担とする」としか書かれていない曖昧な特約は、借り主が条件を正しく理解できないため、そもそも合意が成立していない(特約として無効である)とされる可能性が高いという法的問題点があります。
2)実際の裁判例における判断の分かれ目
実際の裁判では、特約の書かれ方や説明の度合いによって、大きく3つの判断(無効、有効、一部有効)に分かれています。
●無効(特約不成立)になるケース:
○単に「清掃費用は借り主負担」と書かれているだけで、金額や条件が不明確な場合です。また、十分な説明が行われなかった場合も、「借り主が心から納得したとは言えない」として無効と判断され、貸し主の請求が退けられています。
●有効になるケース:
○「退去時には必ず専門業者の清掃を実施し、費用は〇〇円とする」など、内容と金額が具体的で明確な場合です。また、その請求金額が家賃の半額以下など高額すぎず、借り主にとっても「退去時の面倒な大掃除を免除される」というメリットがあるケースでは、明確な合意があったとして有効と判断される傾向にあります。
●一部のみ有効になるケース(制限的解釈):
○特約の合意自体は認めるものの、貸し主の請求額が高すぎる場合、全額の負担を認めるのは不公平だとして、「常識的に考えて妥当な金額(たとえば3万3000円の請求に対し2万円のみ)」に減額して負担を認めた裁判例もあります。
3)実務上の留意点(企業や個人が注意すべきこと)
貸し主(企業や大家さん)の注意点:
退去時のトラブルを防ぎ、借り主に清掃費用を負担してもらうには、「専門業者による清掃であること」や「具体的な金額(〇〇円)」を契約書にはっきりと明記する必要があります。曖昧な書き方では無効になってしまいます。また、契約時には「本来は大家が払う費用だが、特約として設定している」という理由を口頭でしっかり説明し、借り主から納得して合意をもらう手続きが不可欠です。
借り主(個人や住む人)の注意点:
契約書にサインする際、清掃代の記載が曖昧でないか、金額がいくらかを自分でしっかり確認することが大切です。もし「費用は借り主が負担する」としか書かれていない曖昧な契約であれば、退去時に高額な請求をされても、裁判例を根拠に支払いを拒否して敷金の返還を求めることができる可能性があります。一方で、具体的な金額に合意して契約した場合は支払う義務が生じますが、退去時の大掃除を自分でしなくて済むという利点もあるため、契約時にそのバランスを考える必要があります。
4)消費者契約法10条の観点からの問題点
「消費者契約法」という法律の10条には、「立場の弱い消費者の利益を一方的に奪うような不当な契約は無効になる」というルールがあります。一部の裁判では「金額が妥当であれば特約は有効」とされましたが、資料の著者は、以下の理由から、たとえ金額が明確でもクリーニング特約は消費者契約法10条に違反して「無効」になる可能性が高いと強く指摘しています。
●本来、次の入居者のために大家さんが負担すべき清掃代を、今の借り主に不当に押し付けているため。
●借り主が普段から綺麗に使い、退去時にピカピカに掃除をして汚れがない状態であっても、問答無用で清掃業者代を請求されるのは借り主に一方的に不利であるため。
●数ヶ月しか住んでいない人も、何年も住んだ人も、同じ定額の負担を求められるのは不合理であるため。
●もし借り主の不注意で壁紙の張り替え代などを別途請求された場合、その費用と定額の清掃代から重複して費用が取られ、「二重取り(二重の負担)」になってしまう危険性があるため。
以上のように、クリーニング特約は「条件の明確さ」と「借り主にとって一方的に不利でないか」が厳格に問われるため、双方が正しい知識を持って契約に臨むことが非常に重要です。
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