まだ終わっていないスルガ銀行不正融資
かぼちゃの馬車事件
シェアハウス「かぼちゃの馬車事件」に端を発して明らかになったスルガ銀行の文書改ざんなどによる不正融資事件は、発覚から4年になる。この事件で注目を集めたのが、このシェアハウス投資の黒幕と言われる佐藤太治氏という人物。佐藤氏は事件発覚前に、かぼちゃの馬車運営会社であるスマートデイズ)を売り抜けており、その後はかぼちゃの馬車のスキームを活用して民泊ビジネスに乗り出したなどの噂はあったが、現在はその行方が分かっていない。
スマートデイズは、かつて東京都中央区銀座に本社を置いていた不動産会社で、女性専用シェアハウス「かぼちゃの馬車」などのサブリース事業などを展開していた。2018年に4月9 日、東京地方裁判所に民事再生法の適用を申請、監督命令を受ける。負債総額はおよそ60億3523万円。その後、4月18日、民事再生法の申請が棄却され、保全管理命令を受けたものの、5月15日に破産手続き開始の決定を受けた。
東京地裁の勧告 債権譲渡と代物弁済
一連の事件でダマされたオーナーたちに向けられる目は厳しいものがあるが、こうした実体を知ることで、オーナーを責められない部分がある。借金だけを背負わされたオーナーたちは、スルガ銀行に次のような責任を認めるよう求めてきた。
- スルガ銀行の行員が関わった借入申込書の預金通帳や収入証明書類の違法改ざん行為
- サブリース業者が、仕入れた土地価格に大幅な上乗せをし、シエアハウス建築工事費も実際の工事費に大幅な上乗せをして、スルガ銀行はそれを知りつつ融資して、被害者オーナーに高値づかみさせた行為
- サブリース業者とスルガ銀行の行員、仲介業者が関連共同して、不当な取得諸経費を上乗せした行為
- 破綻必至のサブリース事業による収入保証を信じ込ませて借入させた行為など
これに対してスルガ銀行は、申立対象のシェアハウス関連融資について、不法行為を構成するとの判断を前提とする東京地方裁判所の調停委員会の調停勧告を受け止め、自らの責任を明確に認めて、債権譲渡と代物弁済で、かぼちゃの馬車の一連の不正融資事件は、2020年秋に収束に向けて動き出した。
しかしながら、解決に向かっているのは「かぼちゃの馬車」による不正融資についてだけであって、一連の黒幕とされる佐藤太治氏や、一連の取り引きに関係した販社、仲介業者、建設業者などは野放しのままだ。
まだ終わりの見えていない「不正融資」
さらには、シェアハウス以外の不正融資については、終わりが見えていない。
種類 | 融資件数 | 改ざん・偽装などの不正が認められた案件 | |
件数 | 債権額 | ||
シェアハウス | 1,647件 | 886件 | 1110億4100万円 |
シェアハウス以外 | 36,260件 | 6,927件 | 4427億2700万円 |
全体 | 37,709件 | 7,813件 | 5537億6800万円 |
この表は、2019年にスルガ銀行が明らかにした調査報告です。
解決に向かったのは「シェアハウス」だけです。シェアハウス以外の「一棟マンション」については、2024年時点でも、多くは解決の緒すら見えていないようです。当協会では、多くの被害者から相談を受けてきました。それぞれに「不正の実態調査」「建物の調査」などを行って、解決の方向性についてお話をしました。その後、被害者の皆さんは、それぞれの考えに基づいて行動されています。あくまで不正を追求したいと集団訴訟弁護団に依頼して解決を目指す方々、スルガ銀行の集団訴訟は受けないとの方針で、個々に個別訴訟を弁護士に依頼する方々さまざまです。残念なのはやむを得ず自己破産を選ばれた方もおられます。なかには、不動産会社の協力で充分とは言えないまでも、任意売却をすすめられて解決が見え始めた方もおられます。しかしながら、まだまだ先は厳しいと実感しています。
不正融資のスキーム
ここで、今後同じような被害に合わないために、不正融資のスキームを今一度知っていただきます。
不動産投資セミナーへの誘い
多くの方は、知人や職場の上司などから「投資セミナー」への参加を呼びかけられています。将来、年金は破綻するというマスコミの言葉に惑わされ「投資セミナー」に参加して、不動産投資が以下に安定した収入が得られるかの説明を受けます。セミナーには、スルガ銀行が主催しているケースも少なからずあります。銀行のセミナーだからと安心していたのかもしれません。
あなたは属性が良いという甘い罠
セミナーを終えてしばらくすると、投資会社の人から連絡があります。「あなたは属性が良い、あなたにしか紹介できない投資案件があります」と言われると悪い気がしません。属性というのは本来は、事物が持っている特性のことです。ここでは「あなたはエリートと言われるひとです」というおだて言葉です。今は「エリート」という言葉を嫌う風潮があるので「属性」という言い方をします。
フルローン、サブリースという偽装
褒められて悪い気がしません。「あなたの属性がいいから銀行は、手付金なしのフルローンで融資ができますと言っています」とおだてます。「そんなあなたにしか紹介できない投資物件があります」と商談を始めます。「ちょっとお住まいからは遠いですが」と、物件の紹介をしながら家賃収入や利回りを説明をされます。「サブリース」という。30年間の家賃保証を弊社が行います。
この段階で、被害者は自分の見たい夢しか見えなくなっています。一度見に行きたいのですが」と尋ねると、「構いませんよ、こんなに条件の良い物件なので、少しなら待ちますが、こんなチャンスは二度とないので、だめなら諦めてください」と言われてだれもが、決断します。
さまざまな偽装手口
購入希望を示すと、融資審査のための書類として「源泉徴収票」「預金通帳」などのコピーを要求され、言われるがままに提出します。提出した預金通帳は改ざんされて銀行にだされます。
それだけではありません。いらないはずの手付金の領収書の偽装。二重の契約書。元の所有者と併せない、三為契約、
銀行は、これらの偽装には関与していないと主張しますが、いずれも銀行が関与しなければできない偽装手口です。
そして誰もいなくなった
契約を終えて数ヶ月、話のとおりに家賃が振り込まれてきます。これで将来も安心だ、もう一軒くらい購入しても良いかなという欲がうまれます。そこで同じ不動産業者から、もう一軒投資しませんかというお誘いがあります。わずか半年で3件の投資をした方もおられます。
そしてしばらくすると、家賃が約束どおりに振り込まれてきません。電話してもなかなか担当者とゆながりません。ある日突然、郵送で「サブリース契約解除」の通知が送られてきます。
電話してもつながりません。慌てて休みをとって不動産会社の事務所にいくと誰もいません。会社すらありません。そこで初めて騙されたことに気が付きます。
銀行に連絡をとっても、知らぬ存ぜぬです。
このようにして7000件の被害が起きました。
新たな手口が生まれる社会
それから3年、今ではあれだけ騒ぎ立てたマスコミは何もいいません。金融庁もなんの指導も今はしていないようです。これは憶測ですが、スルガ銀行の数千億の不良債権の処理を見ているだけでしょう。その後進めようとしている金融編成のなかでなにか情報がでてくるかもしれませんが、被害者の実態、加害者の実態については明らかにはされないかもしれません。
だれも反省していない不動産投資
戦後80年、日本経済の中で不動産業界にはさまざまな事件がありました。ここで戦後の不動産業界のさまざまな事象を時系列で示した見ます。
- 1960年代 大規模ニュータウンの開発 千里ニュータウン、泉北ニュータウン、多摩ニュータウン
- 1970年代 日本列島改造(田中内閣) 原野商法、別荘地ブーム、地価高騰
- 1977年 第3次全国総合開発
- 1980年代 地価高騰が続き、土地ころがし
- 1991年 バブル崩壊 〜 地価の下落が続く
- 2005年 都心の地価の一時的な下げ止まり
- 2008年 リーマンショック
- 2016年 地価の下落が続く
- 2017年 路線価バブル期超え
- 2019年 サブリースのリスク顕在化
- 2021年 マンションブーム再来
この歴史に書き残したこともありますが、日本の経済は、不動産の市況に翻弄された感があります。私の個人的な経験でも、それぞれの時代に不動産業界では、多くの事件が起きています。1970年代は、日本中の山野が別荘地造成で荒らされました。1980年代は、誰もが土地ころがしに血道を上げていました。新橋の駅前の喫茶店には、登記簿謄本を抱えた人が店の中を走り回っていました。
このバブルが崩壊したあと、大手銀行の支店長であっても自らの投資(投機)の失敗で、銀行を終われ家族からも見放されました。
不動産投資は、それでも欲を充足させるために続けられています。コツコツと働くことの大切さは、聞かされているにもかかわらず、一攫千金の誘惑には、勝てないようです。
司馬遼太郎の警告
司馬遼太郎は、「土地と日本人」のなかで、次のように話されています。
日本では土地というものが山間僻地にいたるまで投機の対象になって、お互いに寸刻みにした土地をつかみ合っては投げ合っている。それで日本は資本主義国だというのは、おそらく外国人がいくら観察しても、こればかりはわかりにくいんじゃないでしょうか。
土地は「公」のものであるという感覚がないために、自分勝手な開発等が各地で行われた結果、古くからのその土地土地の風景、習俗が完全に破壊された。
最後は、松下幸之助さんとの対談。曰く、土地は製造販売することはできないから、強い公共性があり、水や空気と同様とのこと。また、江戸自体は、藩主は土地の所有者ではなく、町人・百姓が所有者であったとのこと。
これからも不動産投資詐欺は続く
スルガ銀行の事件は少しずつ形骸化されようとしています。そんななか、新たな詐欺の手口が生まれようとしています。「サブリース詐欺」という形もでているようです。外国人による日本の土地やマンションの購入は、あらたな事件を予感させます。
35年以上前、カナダのバンクーバーの不動産会社の人の話です。「今多くの香港の人がバンクーバーのマンションを買い漁っています」「でもそんなに値上がりはしていません。カナダでは不動産は購入金額と売却金額を明示するルールがあるので、不適正な金額は規制がはいります」不動産では適正な利益は認められますが、投機は認められていません。
ここになにかのヒントがあるように思います。
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