賃貸借契約解除に関する判例:借地借家法第28条の「正当事由」
借地借家法第28条の「正当事由」について、多くの判例があります。その一部を示しておきます。参考にしてください。
借地借家法第28条建物の賃貸人による第26条第1項の通知又は建物の賃貸借の解約の申入れは、建物の賃貸人及び賃借人(転借人を含む。以下この条において同じ。)が建物の使用を必要とする事情のほか、建物の賃貸借に関する従前の経過、建物の利用状況及び建物の現況並びに建物の賃貸人が建物の明渡しの条件として又は建物の明渡しと引換えに建物の賃借人に対して財産上の給付をする旨の申出をした場合におけるその申出を考慮して、正当の事由があると認められる場合でなければ、することができない。 |
築50年超のアパートの立ち退きについて、家賃6か月分 の立退料をもって貸主の正当事由が認められた事例
東京地判 令 3・12・14
【判例要旨】
アパートは、建築から50年以上が経過し、倒壊することも懸念される建物である。入居している賃借人がYのみであるという状況が 継続しており、収益性が著しく悪化している。併せて検討すると、隣接する建物を解体して駐車場にすることによって、低層マンションの建築することは十分な合理性があり、明渡しを求 める必要性が相当程度高いと認められる。
Yは、30年以上にわたり居住し高齢であることも併せ考えると、引き続き居住を継続する必要性が高い。 ただし、Yは、契約更新は今回限りとする旨の合意の賃貸借契約書に署名押印している。同契約書にお ける賃貸期間の終期から10年以上も本件建物の使用を継続しているのであるから、引き続 き本件建物において居住を継続する必要性は、相対的に低下している。
解約の申入れに直ちに正当の事由があるとまでは認め難いものの、本件建物の明渡しによって引越し等を余儀なくされるというYの不利益は、 Xがその不利益を一定程度補うに足りる立退料を支払うことによって補完することが可能。立退料額は、本件建物の1か月分賃料及び共益費の合計額6か月分(27万円)に相当する。
サブリース契約には借地借家法第28条の適用がないと して求めた賃貸人の建物明渡し請求が棄却された事例
東京地判 令元・11・26
【判例要旨】
本契約は、サブリース契約には借地借家法第28条の適用がないと して求めた賃貸人の建物明渡し請求が棄却された事例。
借地借家法第28条の契約の更新を拒絶するには、借地借家法第26条第 1項の通知のほかに、同法第28条の正当事由が必要となる。 相続対策として納税資金を捻出するために、本件各建物を可能な限り高額で売却する必要があるため、賃借人や 転借人のない状態で本件各建物を売却するこ とは、自己使用の必要性が大きいものとはいえず、借地借家法第28条の正当事由において考慮すべき事情として大きなものとはいえない。
一方は、本件各建物を転貸することにより本件各建物から安定的に収益を得ていたことが認められる。もっとも、Yが本件各建物を使用する必要性が収益を得ることに尽きることも考慮する と、借地借家法第28条の正当事由の有無を判断するに当たり、サブリースではない賃貸借 と比べて、財産上の給付をする旨の申出が、 より大きな判断要素として考慮することがで きるものというべきである。
提供する立退料の金額は、6万円余にすぎず、本件各契約を解約することにより喪失するYの経済的利益に比 して余りに少額であるから、正当事由を補完するのに足りない。
緊急輸送道路沿道建築物の耐震化条例による建物解体を 理由とする賃借人に対する明渡請求が認容された事例
東京地判 平28・3・18
貸人(原告)は昭和49年建築の地下1 階地上11階の本件建物を所有し賃貸していたが、耐震診断を本件建物につき実施したとこ ろ、基準値を大幅に下回る構造体であることが判明した。人命第一と考え、やむを得ず、本件建物を解体することとし、小売業 を営む賃借人Y(被告)に本件契約は期間満了日をもって終了し、更新を拒絶する旨を通知した。 補強工事も検討したが、十分な 耐震性を有せず、費用が高額になることもさ ることながら、その上、新耐震基準による建物であるか否かが、今後の新入居が見込めない状況が予測さ れることから補強工事は断念した。
賃借人(被告)は長年本件建物にて営業し、全体売上げの約3割程度を占めていることから も、本件建物を使用する必要性は高いといえる。他方で、①耐震性に問題がある 本件建物で営業することは、顧客にも危険な面があること、②本件建物の近隣において代 替物件が存在しないとは認めがたいこと、③ 本件建物以外の4店舗を経営していること、 ④本件建物を立退くことによる損失は立退料 によって一定程度補えることなどを考慮すると、営業継続が困難となるとは認めることはできない。
立ち退き料について、一切の事情を考慮し、立退料の金額としては3000万円 とすることが相当であるとした。
判決は、借地借家法第28条の枠組みに従 って判示されたものであり、「建物の現況」、 すなわち、診断機関作成の耐震診断結果によ る本件建物の解体ないし建替えの必要性だけで、正当事由の具備を認めたわけではなく、明渡しの条件として、裁判所が認める立退料の提供等も考慮して、正当事由が認められるとしたものである。
サブリース会社に対する建物のオーナーの賃貸借契 約解除及び建物明渡し請求が認容された事例
東京地判 平27・8・5
本件は、建物のオーナーが別途所有する古い自宅の補修改築の費用捻出のため、賃借人 であるサブリース会社に建物明渡しを求めた ところ、相応の立退料支払いを正当事由補完条件として、賃貸借契約の解除が認められた事例です。
正当事由の有無について、Xの居住する自宅は築60年を超える老朽化した木造草ぶき平家建の建物であり、その補修改築のためにまとまった資金を必要としているところ、その資金を捻出するためには、 本件建物を可能な限り高額で売却する必要があること、このような理由から、Xとしては、 占有者(賃借人、転借人)のいない空き家の 状態で本件建物を売却することを望んでいる。他方、Yは、本件建物を賃貸(転貸)して賃料を得ているにすぎないものであるから、本件建物を使用する必要性としては、本 件建物を転貸して経済的利益を得ることに尽きるところ、その経済的利益は月額3万3000 円(13万3000円-10万円)にすぎず、本件契約の終了によってYの経営に影響を及ぼすよ うな重大な不利益が生ずるものとは認められ ない。
これらの事情を総合すれば、相当額の立退料を支払わせることで、正当事由を補完することができるというべきである。その立退料の額は、これまでに認定した一切の事情及び賃料相当損害金の支払義務の状況等を総合 勘案して、50万円と認めるのが相当である。
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