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【コラム・論文】マンションの管理費・修繕積立金の滞納対策

築年数が経つと管理費・修繕積立金の滞納が増える

 このグラフは、平成30年の国土交通省のマンション総合調査です。昭和54年以前(築45年を超える)マンションでは、滞納戸数は40%近くなっています。築35年のマンションでも管理費・修繕積立金の滞納している戸数が30%を超えています。

 滞納の状況をもう少し詳しくしらべてみますと、2〜3ヶ月の滞納をしたけれどその後は、問題なく払える方は、多いのです。転職したり、急な出費のために、一時的に滞納をされた方は、概ね3ヶ月程度で解消されます。

 築年数の古いマンションほど、なぜ滞納率が高いのかを考えてみました。マンション管理に詳しい人には、「年金暮らしで支払い能力がないためではないか」との意見もありました。しかし私の実感では違うと思います。30年以上暮らしておられる方は、年金暮らしとはいえ多くはローンの返済を終えられてます。

 そうなると、これがという確かな原因はわかりません。推測はできますが滞納する人には常習性があります。ということは景気によって支払ったり滞納したりしています。つまりは自営業者などに滞納が多いようです。

大きな規模のマンションほど滞納率が高い

次の表も、同じ国土交通省のマンション総合調査です。マンションの規模が大きくなるほど、滞納があるマンションの割合が高くなる傾向があります。さらに驚くべきことにマンションの規模が大きくなるほど、滞納住戸が「ある」マンションの割合が高くなる傾向があるということです。

 150戸を超える規模のマンションでは、1年以上の滞納が急に高くなっています。

 1年以上の滞納になると、一般的な管理費・修繕積立金から計算すると25万円を超えてしまいます。簡単に払える金額ではなくなります。

なぜなのかを、滞納の多かった大規模マンションの管理組合の様子から考えてみました。

管理会社任せでは解決しない

 管理組合の理事の方は、管理費等の収納・回収は、委託している管理会社の役割と考えておられます。管理会社によって違いますが、債権回収を行う期間は3ヶ月程度です。それも郵便はがきを出すだけです。電話などを行うことはないようです。3ヶ月目以降は、理事会で滞納状況の報告があるだけです。その後は管理組合の業務となります。滞納債権回収に関しては最終的には管理会社に責任はありません。

 管理組合ではこの認識はありません。滞納はまさに「面倒な他人とのかかわり」の問題です。そのためできれば避けておきたい問題です。しかも滞納者も同じマンションに住まわれている方です。ある理事長が、「督促はしない。借金取りのようなことは私の仕事ではない」と断言されたことがあります。なにか勘違いされているようです。

 管理組合の理事会には、建物の維持保全に必要な資金を管理する役割があります。後述しますが、督促をするわけではありません。理事会として組合員(区分所有者)の方と話し合いをして、お互いが納得できる道を探すだけです。

 大規模のマンションであればあるほど、個々の区分所有者のマンション管理の意識が低くなる傾向があるようです。

 小規模のマンションでは、お付き合いはないもののなんとなく顔見知りです。挨拶くらいはされます。管理組合の役員も輪番が多く定期的に参加することになります。 

 大規模マンションで、輪番もありますが、150戸であれば任期2年として30年に1回役員になる程度です。マンションという共同体意識はうまれにくいようです。挨拶するしたことがないケースも多く、滞納していても罪悪感が低くなるのではと考えています。

無関心がマンションの資産価値を下げる

 東京のある中規模の古いマンションの事例を紹介します。このマンションはかなり劣化も進んできたので、新しく理事長になられた方が大規模修繕をしなければと考えました。調べてみると、修繕積立金の預金残高がほとんどありませんでした。理由が2つみつかりました。一つは、理事会は、管理会社の言われるがままにいろいろな工事をしていたためです。もう一つが管理費・修繕積立金の滞納が多額でした。大規模修繕どころではない状態です。ここままでは限界マンションになるかもしれないとの危惧をいだいたとのことです。

 しかしお金はありません。理事会で話し合いながら、様々な方策を考えたとのことです。公的な借り入れも行いました。滞納の方とも話し合い少しずつ支払っていただけることになりました。そしてようやく、大規模修繕も必要なところからスタートして、再生の緒についたところだそうです。

滞納問題の解決の3つのステップ

 滞納された方には、そうしなければならなかった理由があります。転職したために一時的に支払えなかった、事業に失敗した方、家族に問題がおきたなどいろいろです。言えることは、悪意がある方はまずおられません。「滞納して10万円を超えてしまった、なんとかしたいけどどうしたら良いかわからない」というかたがほとんどです。理事会から解決の手を差し伸べることを、待っていらっしゃるケースが多いようです。自らが相談されることは、まずありません。

 管理費・修繕積立金は、一定ではありません。築年数、階数、戸数、設備などによって変わります。築古の郊外の5階建てまでのマンションは比較的低く、都心のタワーマンションは高額です。首都圏の一般的なマンションでは、25,000円/月〜@35,000円/月が多いようです。

 25,000円/月で計算しますと、半年の滞納で15万円、一年で30万円の滞納金額になってしまいます。滞納期間が長くなればなるほど解決が難しくなります。そこで 3つのステップを提案しています。

ステップ1 (滞納4ヶ月〜6ヶ月)

 理事会名で、滞納者にお手紙を差し上げます。

 管理会社が滞納のお知らせを送るのは3ヶ月くらいまでです。このあとは理事会に滞納回収の役割が移ります。4ヶ月目を超えた時点で理事長名でお手紙をお送りします。内容証明である必要はありません。

 お手紙の内容は、受け取られた方のお気持ちを忖度して、滞納金額を今一度お知らせしながら、「お支払いの予定をお聞かせください」「事情がある場合は、分割納入もご相談させていただきます」程度がよいようです。

 このステップで、概ね滞納されている8割以上の方から「お支払い予定の連絡」があります。その期間次第で面談をお願いすることもありますが、ほとんどここで解決します。

ステップ2 (滞納6ヶ月を超えた時点)

 面談で事情をお聞きする時期です。

 すでに滞納金額は20万円近くなっています。一括返済は難しくなっている時期です。管理会社の担当(フロント)もしくは理事長が、ご本人に電話などで連絡を取ります。

 ここでも相手の事情を忖度した言葉で、「面談の時間をいただけませんか? お支払いの予定をお聞かせください。事情がある場合は、理事会として分割納入もご相談させていただきます」の内容をお伝えします。

 面談は、集会室など人目につきにくい場所で行います。理事会側は、2人か3人でお会いします。多いと威圧感を与えるので注意が必要です。とはいえ一人ではあとで問題が残ることがあります。

 面談内容は、まずは、①滞納金額の確認、②お支払いの可能性の2つをお聞きします。次に一括のお支払いが難しいようであれば、分割でのお支払いを提案いたします。

 滞納金額の分割は、事情によりますが、滞納金額が1年ないし2年で完済できる金額が一般的です。分割割合は、理事長が事前の理事会で承認されていれば、理事長の判断になります。

 そうなると、毎月のお支払い金額合計は、「分割返済額+毎月の管理費・修繕積立金」となります。この内容で合意していただければ、文書にして署名していただきます。捺印の必要はありません。ただし作成日は必ず記載をしてください。理事長も署名して副本は滞納されている方にお渡しします。ステップ2で、9割以上は解決します。

 気をつける必要が、ひとつあります。滞納されている方は経済的に厳しい方が多いので、お約束した分割がされないことがあります。その場合は必ず連絡をとって事情をお聞きします。

 200万以上滞納された方でも、このお約束を家族で守っていただいて、就職された御子息が中心になって10年かかって完済されたケースもあります。

 残念ながら、途中で無理となったようでお部屋を売却されて退去された方もおられます。

ステップ3 (滞納金額が40万円近くなった方)

 少額訴訟手続き

 本当に少ないのですが、滞納金額が40万円近くなり、面談のお願いしても応じてくださらない方がたまにおられます。この場合は、簡易裁判所で少額訴訟の手続きを行います。少額訴訟については、別なコラムで詳しく説明しておきますので、そちらをお読みください。

 なぜ40万円かは、少額訴訟の上限が60万円だからです。少額訴訟の場合の印紙代は、最大6000円で、他に郵便切手の負担があるていどです。管理費・修繕積立金の請求では、難しい弁論もありません。そのために弁護士に依頼する必要はありません。裁判には理事長本人の出席が求められます。

 60万円を超えますと通常の訴訟となり、訴訟費用も高額になります。本人訴訟もできないわけではありませんが、一回で終わらないこともあります。弁護士に依頼することになる場合が多く弁護士費用の負担が必要となります。

 注意点としては、管理組合が訴訟を行う場合は、規約に特別の定めがない限り、集会(総会)の承認が必要となる場合もあります。集会(総会)の承認をえておくことが無難です。

少額訴訟の概要

 ほとんどの方は、簡易裁判所にいかれたことも、少額訴訟の経験もないと思われますので、簡単に説明します。

<訴訟提起>

 簡易裁判所の窓口で、定型の書式で書いた訴状と印紙(訴額によって変わります)、そして切手を提出します。(切手は、使われなかったものは返還されます)できれば、訴訟前に本人宛に内容証明を出しておくと良いでしょう。訴状の書式はインターネットでもダウンロードできます。

 本人へは、裁判所から裁判の期日が帰された呼出状が郵便書留で知らせがだされます。よほどの事情がないかぎり、期日変更は認められません。

<裁判時間>

 裁判は、大きな争いがない限り半日で結審します。

<理費・修繕積立請求訴訟の過程>

 裁判では、本人確認ののち裁判官から「調停をします」として、調停員が指名されます。管理費・修繕積立請求訴訟の場合、調停員は原告(管理組合)、被告(滞納者)と、まずは個別に別室で調停にはいります。そこで分割支払いの意思を確認します。被告が分割支払いも無理だと拒否されると不調となってしまいます。調停員は裁判官ではありませんが、管理費・修繕積立金は支払い義務があることなどが話されます。

 調停が成立すると、調停員は内容を裁判官に伝えます。そして裁判官より和解調書もしくは判決が後日送付されることが伝えられます。1時間もかかりません。

 被告が欠席したり、調停員の和解案を拒否したりすると、原告勝訴となります。それでも支払いがない場合は、差し押さえなどの強制執行も可能となります。

 このようになる事例は、ごく稀です。理事会が役割を果たさない場合はここまで至ることがあると考えて下さい。

請求権消滅時効

 民法の債権に関する部分が2017年に改正され、2020年4月より施行されています。 改正により、民法上の消滅時効期間は、債権の種類を問わず、①権利を行使できることを知った時から5年または、②権利を行使できる時から10年になりました。

 管理費・修繕積立請求の場合、当然管理組合は①の権利を行使できることを知っていることになりますので、時効は5年です。

 滞納があるのに、回収努力をしないで放置しておくと5年を超えた金額は回収できなくなり 理事会の責任が問われることになります。

以上

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