瑕疵(かし)担保責任の期間制限に起算点は、単にクラックを発見した時ではなく、弁護士の助言に基づいて専門業者に相談し、見積書の交付を受けた時とした。
大阪地裁 平成11年2月6日判決____________________________________________________________________
【判例】
『付帯設備及び状態確認書』に記載された内容と異なる瑕疵があった場合は、売主は買主に対して、その修復の義務を負うものとする。但しその期日については本物件の引渡し後、2カ月とする」特約は有効なのか?
【判決概要】
引き渡し後2カ月に制限される瑕疵は、「雨漏り、給排水管の故障等、一般人が建物に居住する際に、通常の注意義務をもってすれば一見してこれを発見することが容易に可能な瑕疵を指すものと解するのが相当」として、限定的に解釈すべき
本件土地の造成時の地盤改良工事の際の転圧不足による地盤沈下および施工上の不備による、土間コンクリートのひび割れ、壁面・基礎部のクラック、外壁盛り土の沈下、床タイルの割れは、民法570条・566条3項に定める1年の期間制限を除斥期間(じょせききかん)と解すべき。
【法律構成】
債務不履行責任と瑕疵担保責任【民法570条】を選択的に主張
原告の主張する瑕疵を認め、本件特約の限定的に解釈したうえで、本件瑕疵はこの特約により行使期間を制限される瑕疵に当たらないとして本件特約の適用を排除し、瑕疵担保責任による補修費などの損害賠償請求を認容。
各共有持分の割合に応じた修補費用相当額の損害賠償を求めた。
【期間制限】
「本件建物について別添『付帯設備及び状態確認書』に記載された内容と異なる瑕疵があった場合は、売主は買主に対して、その修復の義務を負うものとする。但しその期日については本物件の引渡し後、2カ月とする」旨の特約の有効性と解釈が争点の1つとなった。
【認定された欠陥】
本件土地の造成時の地盤改良工事の際の転圧不足による地盤沈下および施工上の不備による、土間コンクリートのひび割れ、壁面・基礎部のクラック、外壁盛り土の沈下、床タイルの割れ。
【コメント】
(1) 本件特約によって瑕疵担保責任による請求権行使期間が引き渡し後2カ月に制限される瑕疵は、「雨漏り、給排水管の故障等、一般人が建物に居住する際に、通常の注意義務をもってすれば一見してこれを発見することが容易に可能な瑕疵を指すものと解するのが相当」として、限定的に解釈し、本件瑕疵への適用を否定されました。そして、本件瑕疵に適用される民法570条・566条3項に定める1年の期間制限を除斥期間と解し、この期間内に売主に担保責任を問う意思を裁判外で明確に告げることで足り、裁判上の権利行使までは要しないとしました。
(2) 瑕疵担保責任の期間制限に起算点についても、単にクラックを発見した時ではなく、弁護士の助言に基づいて専門業者に相談し、見積書の交付を受けた時としました。
(3) 瑕疵担保責任による損害賠償請求は信頼利益に限られるとしても、それは瑕疵がないものと信じたことにより被った損害であり、補修費用相当額はこれに含まれるとしました。
(4) 慰謝料については「特段の精神的苦痛」を要求し、弁護士費用については「売主の行為に強度の違法性」を要求し、いずれも本件では認められないとして否定しました。
■用語解説
除斥期間(じょせききかん)
法律関係を速やかに確定させるため、一定期間の経過によって権利を消滅させる制度。
旧民法724条
不法行為による損害賠償の請求権は、被害者又はその法定代理人が損害及び加害者を知った時から3年間行使しないときは、時効によって消滅する。不法行為の時から20年を経過したときも、同様とする。
改正民法724条
不法行為による損害賠償の請求権は、次に掲げる場合には、時効によって消滅する。
1 被害者又はその法定代理人が損害及び加害者を知った時から3年間行使しないとき。
2 不法行為の時から20年間行使しないとき。
改正民法724条の2
人の生命又は身体を害する不法行為による損害賠償請求権の消滅時効についての前条第1号の規定の適用については、同号中「3年間」とあるのは、「5年間」とする。
旧民法における瑕疵担保責任
民法570条では、売買された目的物に隠れた瑕疵があった場合、売主は買主に対して損害賠償責任を負い、場合によっては契約の解除を認める特則が設けられています。
新民法における契約不適合責任
2020年4月1日に施行された民法改正により、従来の「瑕疵担保責任」は「契約不適合責任」に改められました。契約不適合責任では、売買された目的物が契約の内容に適合しない場合、買主は以下のような権利を主張することができます。
履行の追完請求:
瑕疵の修補、代替物の引渡し、不足分の引渡しなどを請求することができます。
代金減額請求:
瑕疵の程度に応じて、代金の減額を請求することができます。
損害賠償請求:
瑕疵によって生じた損害について、損害賠償を請求することができます。
契約の解除:
重大な瑕疵の場合は、契約の解除を請求することができます。
行使期間:
新民法では、買主が不適合を知った時から5年間であれば、権利を行使することができます。旧民法では、買主が瑕疵を知った時から1年以内でした。
<参考文献>
判例タイムズ社
民事法研究会
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