アパートなどの賃貸借で、多くの方がサブリース契約をされています。このサブリース契約の紛争は、近年ますます増える傾向にあります。紛争が調停和解となる場合もありますが、裁判となって、最高裁まで及ぶ事例もあります。そのサブリースに関連する判例で、知っておくべき判例をいくつか紹介いたします。
サブリースに関連する紛争で最も多いのが「賃料の増減額請求(借地借家法第32条)」ついて「借地借家法第28条(契約解除)」です。
「賃料の増減額請求」について、H16.12.22東京高裁、H16.11.8最高裁、H16.4.23東京高裁、H15.12.23最高裁,H15.10.21 最高裁、H15.3.31 東京地裁、H13.3.28東京高裁、H12.1.25東京高裁、H10.8.28東京地裁、H9.6.10東京地裁、H8.10.28東京地裁、H7.10.30東京地裁と多くの判例があります。
これらの判例は、いずれもサブリース契約においても借地借家法第32条の適用されるとしている点と、その賃料についての「相当」について判断されています。なかでも最高裁,H15.10.21 最高裁の判例に考え方の基本が示されたものとなっていますので、紹介します。
賃料減額確認等請求本訴等 最高裁 平成16年11月8日判決
1.借地借家法32条1項の適用の有無
建物を一括して賃料自動増額特約等の約定の下に賃借することを内容として締結した契約(いわゆるサブリース契約)についても、借地借家法32条1項の規定が適用される。
なお、この判決には裁判官福田博の反対意見があったが、全員一致での判決となった・
反対意見(裁判官福田博)
本契約は「土地の所有者」「賃貸ビル事業者」「金融機関」「建物の設計施工監理」等が合同して行う共同事業にほかならない。不動産賃貸借契約は、従来から借地借家法が適用されてきたそれと次元を大きく異にするものである。
借地借家法32条1項が強行法規であるから、共同事業であるサブリース契約に対しても適用されるというのは、余りに立法の沿革に沿わぬ考え方。
このような共同事業は、近年にあっては賃貸用の不動産物件を相当な規模で社会に供給する役割を果たしてきたのであり、そのような社会のニーズに答える共同事業について、従来の借地借家法の強行法規性を単純に拡張適用するのは、現実的な司法の役割とはいえない。
2.賃料減額請求をした場合に、請求の当否及び相当賃料額を判断するために考慮すべき事項
本件契約締結に至る経緯は、衡平の見地に照らし借地借家法32条1項の規定に基づく賃料減額請求の当否及び相当賃料額を判断する場合に重要な事情として十分に考慮されるべきである。
補足意見(裁判官滝井繁男)
サブリースといわれる契約は、賃貸借契約の中でも特殊なものであり、そこにおける賃料に関する合意は、一般の賃貸借契約とは異なる意味を持っている。
当該賃貸借契約における賃料は、目的物の価格や近傍同種物件の賃料だけでなく、当該建物の建築資金の返済に充当することが予定されており、その返済額が固定されている以上、契約後の経済事情の変動のみによって、その返済の原資となる賃料が容易に減額されることはないものとして定められているものと解すべき。
賃借人となった不動産賃貸業者は、その専門家としての知識と経験を駆使し、賃料収入を予測し、建築工事のために必要となる借入金額とその返済額を検討した上で、賃貸事業試算表を作るなどして賃貸人に事業の採算性を請け合った。
賃借人が建物を転貸することによって受け取る賃料収入がその経済事情の変動により減少しても、これによって生じるリスクは賃借人が引き受けたものとして、これを直ちに賃貸人に転嫁させないというのが衡平にかなうものと考える。
建物賃料改定等請求本訴等 最高裁 平成15年10月23日判決
1.借地借家法32条1項の適用の有無
建物を一括して賃料保証特約等の約定の下に賃借することを内容として締結した契約(いわゆるサブリース契約)についても、借地借家法32条1項の規定が適用される。
2.賃料減額請求をした場合に、請求の当否及び相当賃料額を判断するために考慮すべき事項
借地借家法32条1項に基づいて、賃料減額の請求をした場合において、その請求の当否及び相当賃料額を判断するにあたっては、当事者が賃料額決定の要素とした事情を総合考慮すべきであり、特に上記特約(賃料保証特約)の存在や保証、賃料額が決定された事情も考慮すべきである。
建物賃料改定請求事件 最高裁 平成15年10月21日判決
建物賃貸借契約に基づく使用収益の開始前に借地借家法32条1項に基づき、賃料増減額請求することの可否についての判例。
建物賃貸借契約の当事者は、契約に基づく建物の使用収益の開始前に借地借家法32条1項に基づいて賃料の額の増減を求めることはできない。
賃料額および本件賃料自動増額特約は、転貸事業のために多額の資本を投下する前提となったものであって、 契約における重要な要素であったと言うことができる。これらの事情は、本件契約の当事者が当初賃料額を決定する際の重要な要素となった事情であるから、衡平の見地に照らし、借地借家法32条1項の規定に基づく賃料減額請求の当否(同項所定の賃料増減額請求権行使の要件充足の有無)及び相当賃料額を判断する場合には、重要な事情として充分考慮されるべきである。
補足意見(裁判官藤田宙靖)
法定意見が、借地借家法32条1項による賃料減額請求の当否(同行所定の賃料増減額請求権行使の要件充足の有無)及び相当賃料額の判断にあったり賃料額決定の要素とされた事情等を充分考慮すべきもの判示していることからも明らかなように、民法及び借地借家法によって形成されている賃貸借契約の法システムの中においても、しかるべき解決法を見いだすことが十分にできるのである。
さらに、事案によっては、借地借家法の枠外での民法の一般法理、すなわち信義誠実の原則、あるいは不法行為法等の適用を個別的に考えている可能性も残されている。
まとめ
ここでは、3件の判例を紹介しています。すべての判例に共通しているのは次の2点です。
1)いわゆるサブリース契約についても、借地借家法32条1項の規定が適用される。
2)借地借家法32条1項に基づいて、賃料減額の請求をした場合において、その請求の当否及び相当賃料額を判断するにあたっては、当事者が賃料額決定の要素とした事情を総合考慮すべき
「サブリース契約には借地借家法第28条の適用がない」として求めた賃貸人の建物明渡し請求が棄却された事例
令和元年11月26日 東京地裁
【判例】
借地借家法第28条における「正当事由」の規定は、サブリースのような契約形態は想定の範囲外であること、契約書に両当事者から解約申入れにより解約できる約定があること等を理由に、同条は適用されるべきでないと主張し、明渡しと使用損害金の支払いを求めた事案において、サブリース契約にも借地借家法第28条の適用があるとして、請求が全て棄却された。
サブリース契約にも借地借家法の適用があ ると、最三判 平15・10・21 で判断されており、サブリース会社に対し明渡しを 求められるかは、借地借家法第28条に規定されている「正当事由」により判断されることになる。本件においては、貸主側の自己使用の必要性が大きくないことから、正当事由 が認められなかった。
サブリース会社に対する建物のオーナーの賃貸借契約解除及び建物明渡し請求が認容された事例
平27年8月5日 東京地裁
【判例】
建物のオーナーが別途所有する古い自宅の補修改築の費用捻出のため、賃借人であるサブリース会社に建物明渡しを求めた ところ、相応の立退料支払いを正当事由補完 条件として、賃貸借契約の解除が認められた 事例。
同種の裁判例の判断基準に沿ったものと言えよう。 一般的には、転借権は賃借権の上に成立しているものであり、賃借権が消滅すれば、転借権はその存在の基礎を失うとされているが、サブリース契約に関連する最高裁判例で、 「賃借人の更新拒絶により賃貸借契約が終了しても、賃貸人は信義則上その終了を再転借 人に対抗できない」とされた事例(最一判 平14・3・28 )があり、転借人の利益を保護する方向性が示されている。
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