再生可能エネルギー

軽量型太陽電池の動向

軽量型太陽電池の動向

ペロブスカイト太陽電池研究グループ

(1)軽量型太陽電池の動向

 2050年カーボン・オフセットの達成には、再生可能エネルギーのより多く普及が求められています。そこで現在もなおメガソーラーが新設されています。しかしメガソーラーには森林破壊というリスクがあり非難されています。メガソーラーの問題点を解決できるのが、軽量型太陽電池の開発と考えられています

===発電の初期コスト分析をしてみると===

 メガソーラーの場合16万円/kWあたりのコストは、自然エネルギー財団の試算では、モジュール費 35,000円、架台+システム費 40,000円に比べて、山奥への設置のため、輸送費・工事費・土台の新設など、設置工事費が85,000円となり資本コストの50%以上となっています。軽量型太陽電池が開発され、電力需要場所に設置されると、初期コストは1/4になると考えられています。

===オングリッドとオフグリッドの電気代比較===

 メガソーラーは送電網を利用して需要家に送るグリッド電源です。この場合の電気代は、発電費9.3円/kWhですが、送電費に10.0円/kWh、その他4円/kWhで、計23.2円/kWhかかります。一方需要家の建物で発電し自家消費するオフグリッド電源だと発電費9.3円/kWhのみとなります。(資源エネルギー庁の計算を利用)。

 加えてグリッド電源では、送電のためDC→AC→DCと変換するロスが生じます。オフグリッド電源は、DCを変換することなく消費できます。

 軽量化太陽電池をオフグリッド電源とすると、リサイクル費用も経産省の調査では、1/6になると試算されています。

===軽量化太陽電池の動向===

 これだけメリットはありますが、まだまだ軽量化太陽電池は、量産性などに課題があります。

(2)「軽量型太陽電池が拓くマーケット」

===軽量型太陽電池とは===

 従来のシリコン型太陽電池は、1㎡あたり12〜16kgです。 この重量では設置できる場所が限られていました。既存の住宅に設置するとスレートやガルバリウム鋼板の重量は平均20kg/㎡になり、太陽電池の重さが加わると、建物に大きな負荷がかかります。場合によっては補強が必要となりました。メガソーラーの設置でもその架台が大きくなってしまいます。

 現在開発中の軽量型太陽電池は、メーカーによると、重量が0.25kg/㎡〜1.2kg/㎡とのことです。この軽さで新しい用途がでてきます。

===セミオフグリッド市場===

 メガソーラーは、発電した電力を送電網で需要者に届けるグリッド電源です。セミオフグリッドは、発電した電力を自家消費するのが基本で、余剰電力を売電するためセミオフグリッドと位置づけられるということです。用途は、既存の一般家庭の屋根だけでなくカーポートなどに設置できます。他には軽い屋根の工場やオフィスビル、店舗にも設置可能です。農業分野でもソーラーシェアリングで生産に太陽光が必要な時は取り外し、その他の時期に発電することも難しくないと考えられます。

===オフグッリッド市場===

 こちらは無限と言って良い市場が見込まれています。軽量型太陽電池メーカーでは、現在でも120以上の問い合わせがあるようです。

 コインパーキングの料金システム、水門の電源、養殖漁場、林業現場などは独立した電源としての活用です。柱系では、道路標識、道路照明、携帯電話基地局の独立電源。モビリティ分野はさらに多様で、乗用車、トラック、バスはもちろん、重機、二輪車(バイク・電動自転車)、電動カート、トラクターなど農業機械、船舶、など広い分野に広がっていきます。さらに、センサーの電源としてはさまざまな用途が考えられるとのことです。

 軽量型太陽電池は、開発途上で課題も多いようです。軽い蓄電池も必要となるでしょう。

(3)「必要な技術とニーズ」

===軽量型が拓く市場===

 開発中の0.25kg/㎡〜1.2kg/㎡の軽量型太陽電池ができると、工場や作業施設、ビニールハウス、養殖施設、既存住宅、オフィスビルなどで広がると考えられています。工場やビニールハウスは柱の少ない広い空間が必要なため。屋根は極力軽く造られています。従来のシリコン系太陽電池を設置したくてもできないのです。

 既存の住宅やビルディングも同様に、建築時に計算された耐荷重性を考えるとシリコン系の1㎡あたり12〜16kgのパネルの設置が難しくなっています。台風や地震の多い日本の風土では採用できない厳しい現実があります。

===支柱系市場に必要な技術===

 支柱系の市場とは、街灯柱、交通表示柱、電線・回線の柱、防災放送、携帯基地局などです。見渡して見れば多種多様な柱が日本中に立っています。それぞれに必要な電力量は多くないけど、大きな市場があります。日本全体ではギガワットと考えられます。

 防災放送や携帯基地局は、電力供給がなくても作動しなくてはなりません。地震の避難で一番求められるのは街灯です。一方、ここで求められるのは、軽さに加えて支柱に巻いて設置するので、強風に耐える技術が必要です。また、狭い支柱には一日で何度も影ができます。

===日本の方向性===

 日本は、シリコン型太陽電池の技術を確立したにも関わらず、その市場は過剰生産の国に市場を取られてしまいました。新領域の太陽電池は大量消費大量生産ではありません。日本には、ひとつひとつを大切にする思考があります。日本が優位になる市場です、次回はもう少しこの分野を考えます。

(4)「移動体太陽電池が求める技術」

 軽量型太陽電池として、「軽量シリコン」「CIGS」「ペロブスカイト」「ガリウムヒ素(GaAs)」などを研究しています。しかし超えなければならないハードルがかなり高いのです。

===移動体に求められる技術===

 工場やビニールハウス、支柱等に求められる技術でした。今回は移動体が求める技術について取り上げます。移動体は「乗用車」「トラック・バス」「小型三輪車」「建設危機」「農機」「電動カート」などさまざまな用途に需要があります。ドローンや人工衛星もあります。

 これらの用途で求められる技術は、「高効率の発電量」「耐久性」「量産性(コスト)」「設置性」の4つです。

===高効率の発電量・耐久性===

 現在の太陽電池の効率は17〜19%ですが、移動体では27〜29%が要求されます。まずは20%を超えるところから利用がスタートすると考えられています。

 また、移動体では耐久性も求められます。しかし従来の太陽電池の30年は必要なく、ますは7〜10年で、目標は20年です。加えて耐振動性と、80℃以上の耐熱性が求められます。

===設置性・量産性===

 軽いのはもちろん、車では1mm以下の薄さがないと車検が通りません。サイズの自由度や意匠性も求められます。そして安全のため60V以下であることと、効率のため48V以上の狭いシステム適合性がターゲットです。量産技術と低コストも重要です。現在は誰も成し遂げていない分野です。日本の企業が成し遂げてくれることを期待したいものです。

(5)「カルコパイライト」

===カルコパイライトとは===

 カルコパイライトは、シリコン(珪素 (けいそ) )の代わりに、黄銅鉱に似た結晶構造をもつ化合物半導体を用いた太陽電池です。 銅・インジウム・セレンを用いるCIS型太陽電池、これにガリウムを加えたCIGS型太陽電池などが知られ、黒一色の外観をもっています。

 この太陽電池は最近実用化が始まったばかりですが、薄くて軽く、しかもに比べて光を吸収しやすく、用途に合わせて様々な性能や形態の製品を製造できると見込まれています。

===ペロブスカイトタンデム===

 タンデム型の太陽電池として、結晶シリコンの上にペロブスカイを貼ったものが開発され、中国では製品化も始まっていますが、用途は当面は従来のシリコン系のソーラーパネルの置き換えが主流のようです。

 開発中のペロブスカイト・カルコパーライト・タンデムの第1段階の目標は、軽くて薄くフレキシブルで、耐久性を達成し今後1年程度で製品化を目指しています。第2段階では、タンデム化することで発電効率30%が見込まれ、耐久性の高い製品で薄さ1mm程度、軽さが1kg/㎡が市場にだせるということです。

(6)「薄くて軽い、安い太陽電池」

===ペロブスカイト・カルコパイライトタンデム===

 薄い導電性金属基盤に、トップセルとしてペロブスカイト、ボトムセルにCIGS(カルコパイライト)にすることによって、近赤外線領域まで効率よく発電できるようになりました。現在はCIGSのシングルで19%、タンデム化することで26%を達成、今後30%の効率が目標です。基盤の一番下に全固体電池を取り付け、発電と蓄電を一つのセルに一体化できる可能性があります。

 セル自体は、4cm✕16cm(5千円札を半分に折った大きさ)で、薄さは0.3mm、重さも400g/㎡がとなっている。実装ではもう少し重くなる見込みです。

===なるべくハンダを使用しない===

 セルを重ねて自由な大きさのモジュールを作れるのだが、従来のシリコンはハンダ付けであったが、移動体などの使用では振動に耐えなければならない。導電性基板を使うことで、重ねて接着でき耐振動性を確保しています。

===量産性とコスト===

  量産性と低コスト化には、従来は真空プロセス、溶剤プロセスなどがありましたが、一気通貫で真空生産が可能となりました。また厳しい管理が必要なガスの使用をやめ、安全対策コストも減らすことができた。化学処理をやめることで、廃棄物処理コストを減らし、全体として量産性とコスト低減が見込まれています。

(7)「カルコパイライトタンデム」

===タンデム化===

 ペロブスカイト太陽電池は、薄くて軽い高効率太陽電池として研究が盛んですが、それでも理論上の効率は29%程度です。タンデム化によってより効率を高められます。現在一番開発が進んでいるのが「ペロブスカイト/シリコンタンデム」です。世界中の多くの企業で開発が進んでいます。なかでも中国ロンジ(LONGi)は、結晶シリコンによるタンデム型太陽電池セルで変換効率33.9%の世界新記録達成を発表しました。そしてすでに製品化にも取り掛かっているとも言われています。

 中国では、既存の結晶シリコンパネルに置き換えて、野立てのソーラーパネルを展開しているようです。

右図:PXP社のHPより

===なぜペロブスカイト/カルコパイライトタンデムなのか===

 軽くてフレキシブルな太陽電池を目指すと、耐久性は高く効率も良い結晶シリコンタンデムではないボトムセルを選ぶことになる。そのなかで、最も良いと選択したのが、トップセルにペロブスカイト、ボトムセルにカルコパイライトであると開発者は述べています。

 カルコパイライトは、薄く軽くてフレキシブルで高耐久性があるとのことです。ペロブスカイトで可視光を捉え、カルコパイライトが近赤外線を捉えることで、理論効率36.4%が目指せるという。

 これにより、いままで設置できなかった様々な分野に、太陽電池を設置できる大きなマーケットが見込まれるようです。

(8)「開発がここまで進んでいる」

===発電効率の追求===

 カルコパイライトCIGS太陽電池単体では、現在19%の効率を達成。ペロブスカイト太陽電池タンデムの開発の理論効率29.9%を目指している。現在のところ26.5%の発電効率を達成。くわえて軽量型太陽電池には、フレキシブル性、耐振動性などの課題を達成しなければならない。そのために「カルコパイライトCIGS単体」のバンドギャップの低いものを選択することで、さまざまな課題の解決が見えてきたとのことです。

===生産プロセスの開発がもたらす高熱耐久性===

 ペロブスカイト太陽電池の量産技術として、印刷法と真空法があるが、PXPでは真空法(ドライプロセス)に取り組んだ結果、150℃の高熱に耐えられ、生産過程で毒性の強いガスの使用もしなくなり量産性が向上した。

===宇宙で使われる太陽電池===

 ペロブスカイト太陽電池は、かねてより宇宙で使えるとしてJAXAも取り組んでいる。そこで求められるのは軽さと耐放射線性能です。特に陽子線によるダメージがあった。これまでは耐放射線ガラスなど、高額で重い素材が必要とされていた。ペロブスカイト/カルコパイライトタンデムでは、ダメージは受けるが宇宙空間の太陽熱で修復されるという想定外の自己修復性能が確認された。 写真:PXP社のHPより

(9)車載用太陽電池のチャレンジ

===開発のスタート===

 2011年から、軽自動車のルーフキャリアにシリコン系太陽電池を載せてスタートした。2.0㎡に19kg(厚さ35mm)のモジュールを載せ170Wの発電が得られた。2015年からは薄いガラスで16kg(厚さ7mm)に変えて 200Wの電力が得られたとのこと。

 この段階では、発電した電力を直接動力には使えないので、蓄電してヒーターなどの電装設備に使用して、間接的に燃費向上を図ってきている。

 初期のソーラーパネルは、街なかのいは日陰が多いので劣化し易く、パネルに雨が溜まったり、強風には不安があったようです。

===第1世代〜第2世代===

 2023年からフレキシブルセルをボディに直接貼った。第1世代の重量2kgでは、発電効率がよくなり360Wの発電で10km以上走れるようになった。

 第2世代では、シングルセルからタンデムにすることで、560Wを発電、太陽光エネルギーだけで20kmの走行可能となっている。曲率の高い外周部まで設置できると 変換効率18%でも充分使用できるようです。

 さらに表面にプロテクションフィルムをつけ、洗車キズや石に耐えられるかを実験中。

===第3世代 これから===

 従来型の車載型太陽光発電は、「曲面に貼りにくい」「日陰対策が必要」「パワコン」「サブバッテリーに蓄えなければならない」等、複雑で高コストにならざるを得なかった。第3世代では、開発中のフレキシブルなカルコパイライトタンデムを車載すると、「複雑な配線が不要」「モジュールに蓄電機能があるので日陰にも強い」など、シンプルでコストも安い車載太陽光発電が開発できるようです。

===太陽電池と全固体電池は相性が良い===

 車の蓄電池もリチウムイオンから全固体電池に変えると、一日の変化や、四季それぞれの変化があっても高い効率が得られることもシュミレーションで得られるだけでなく、蓄電池の寿命も伸びるようだ。

 この技術の目標は、いつでも、どこでも、だれにでも自由に使えるクリーンなエネルギーの実現を目指すとしています。

写真:PXPのHPより

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