簡易裁判所
裁判所には、「最高裁判所」「高等裁判所」「地方裁判所」「家庭裁判所」「簡易裁判所」の5つがあります。当事者間に紛争がある場合の解決に、この5つのなかで「地方裁判所」「家庭裁判所」「簡易裁判所」の3つの入口があります。「家庭裁判所」は、夫婦・親子間の問題、遺産分割、成年後見等の家庭内や親族間の問題、少年事件の一部を扱います。
住宅・不動産に関わる紛争を扱うのは、「地方裁判所」と「簡易裁判所」です。紛争の対象となっている金額が140万円以下の事件は「簡易裁判所」が取り扱います。140万円はもめごとの対象を指します。
なかでも60万円以下の金銭の支払を求める場合は、少額訴訟という特別な手続きとなります。これは、1回の手続で審理を終えて判決を言い渡すことを原則とする手続で、紛争の内容があまり複雑でなく、契約書などの証拠となる書類や証人をすぐに準備できる場合は、この手続によることが考えられます。ただ、相手方から通常の訴訟手続で審理してほしいという申し出があったり、事案が複雑等の事情で、1回で終わることが困難であると裁判官が判断した場合は、通常の訴訟手続に切り替わることもあります。
少額訴訟のできた経緯
裁判は通常、何回にも渡ってトラブルの原因を突き止め、その原因に関して両者の意見が食い違う部分を見極め、そしてその部分に関するどちらの言い分が正しいのかを判断していくという作業が予定されています。
少ない金額を支払ってもらうためにわざわざ訴訟を起こすのは、費用対効果の面であまり効果的ではありません。しかし放置することもできません。裁判所で公正な判断をしてもらう必要性は、金額の多寡で変わるものではありません。むしろ少ない金額のトラブルこそ、本当に裁判所の助けを必要としている方が多いのが現状です。このような理解のもと、平成10年から開始された手続が少額訴訟手続です。
少額訴訟の事件例
60万円という上限に訴訟ですので、多いのは「クレジットカードの滞納」「払ってもらえない商品代・工事費」などです。不動産関連では、「マンションの管理費・修繕積立金の滞納」「借りた部屋の原状回復費用」です。
少額訴訟の手続き
簡易裁判所はその名の通り、他の裁判所と比較して若干手続きが容易になっており、一般の方が専門家に依頼しないでも裁判を受けることができるように配慮されています。
必要書類は「訴状」「証拠書類のコピー」法人の場合は「代表者の資格証明書または登記簿謄本」「本人が病気などの場合は「代理人許可申請書」が必要です。書式は裁判所で入手できますが、裁判所のホームページでもダウンロードできます。https://www.courts.go.jp/saiban/syosiki/syosiki_minzisosyou/index.html
民事訴訟を申し立てる際に必要なものは事件ごとに異なりますが、共通するものは次のとおりです。
- 訴状2通(裁判所用と相手方に送る分)+本人分
- 証拠書類のコピー各2通( 〃 )+本人分
- 収入印紙(請求する額によって金額が異なります)
- 郵便切手:相手方が1名の場合 次の切手を用意します。
6,000円:(内訳)500円 7枚、100円 10枚、84円 10枚、50円 10枚、20円 5枚、10円 6枚
*使用しなかった切手は返還されます。
訴状、申立手数料、相手方に書類を送るための郵便切手、添付書類等をご用意していただき、訴えを起こす簡易裁判所に、郵送又は直接提出します。
裁判の期日は、裁判所より連絡があります。
少額訴訟のメリット
(1)裁判所に1回行くだけで判決までもらえる。
少額訴訟制度については、相手から通常の民事訴訟手続への移行の希望が出なければ、原則として、1回裁判所に出廷するだけで、判決をもらえるということが、大きなメリットといわれています。
ただし、簡易裁判所で通常の民事訴訟をすれば、2回以上出廷が必要となるケースも3割近くはあるので少額訴訟により「1回で終わる」ことについて全くメリットがないとはいえないでしょう。
(2)和解による解決も期待できる
裁判所の統計によれば、少額訴訟の約39%が和解で終わっています。
その多くが、債権者側が少額訴訟を起こして、債務者に対して「本気度」を示したことにより、債務者が裁判所に出頭して支払の約束をする内容の和解をして終了しているケースであると推測されます。
このように、和解による解決が一定の割合で期待できることも、債権回収の場面で少額訴訟を利用するメリットの1つです。和解による解決ができることは、通常の訴訟でも同じですが、1回の期日で和解できるという面ではメリットといえるでしょう。
少額訴訟のデメリット
(1)被告から希望があれば通常訴訟に移行する
被告から少額訴訟ではなく、通常の民事訴訟での審理を希望する旨の申し出があれば、少額訴訟は通常の民事訴訟に移行されます。そして、被告側が通常の訴訟での審理を希望する申し出をするために、特段の理由は必要ありません。
(2)1回で終わることを想定して事前にすべての準備が必要
少額訴訟のデメリットの大きな部分の1つは、1回の裁判期日で終わることを想定して、完全な準備を事前にしておくことが必要になるという点です。
主張すべき点をもれなく主張したうえで、証拠についても万全にそろえておく必要があります。特に、証拠として、証人の証言がある場合は、原則として、証人を当日裁判所に連れてくる必要があります。
(3)思わぬ不利な判決が出ても控訴できない
少額訴訟について、もう1つの大きなデメリットは、控訴ができない点です。
しかし、相手から一定の反論があったり、証拠が不十分だったり、あるいは契約書がなかったりした場合は、自分が思っている通りの判決が出ないことがあります。そのような場面でも、上の裁判所に判断を求めることができません。
統計上、相手が出席した少額訴訟のうち、約2割は棄却判決、つまり、請求が認められずに全面敗訴しています。
このように、敗訴するリスクは現実にあり、その場合も、上の裁判所での審理を求めることができないことは、大きなデメリットになる可能性があります。
そのため、債権回収の場面で少額訴訟を利用するかどうかを検討する際には、少額訴訟で敗訴するリスクがないかを慎重に検討することが必要です。
(4)裁判所の判断で分割払いになったり、遅延損害金がカットされることがある
少額訴訟では、債権者側が勝訴した場合も、裁判所の判断で、分割払いを命じる判決になったり、全額支払った場合の遅延損害金を免除する内容の判決になることがあります。
通常の訴訟であれば、一括払いを命じる判決となり、遅延損害金もつきますので、この点は少額訴訟のデメリットといえます。
特に分割払いを命じる判決になった場合、債権者側としては途中で支払いがされなくなるリスクを負うことになります。
(5)同一の簡易裁判所では年間10回まで
少額訴訟には回数制限があり、1つの会社あるいは1人の人が、同じ簡易裁判所で少額訴訟を起こすことができるのは年に10回までです。
(6)勝訴しても相手が支払わない場合は相手の財産調査が必要
少額訴訟で相手に対して支払いを命じる判決が出されても、相手が支払をしない場合は、相手の財産を差し押さえるために、相手の財産を調査することが必要です。例えば、相手の銀行口座を調べて、相手の預金を差し押さえれば、その預金から債権を回収することが可能です。
これに対して、相手に対して支払いを命じる判決が出されても、相手の財産が把握できないときは、差押えができず、実際に債権を回収することができません。
以上
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